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HOME >> 【 コ  ラ  ム  な ど】 >> 65 やっちゃいました その2 【にしゃんた こらむ】

65 やっちゃいました その2 【にしゃんた こらむ】

入院する前から、兆候はあったんです。2週間ぐらい前、頭に2か所も円形脱毛ができたんですわ。自分には絶対に無縁だと思ってましたけどね。

朦朧としながら、円形脱毛について考えました。……そういえば、スリランカで円形脱毛になった人なんて、見たことない。僕は、歴史上初めての、『スリランカ人円形脱毛者』の栄光に輝いたわけや。

でも、こういうときって、なんて言うんやろう? 日本では『十円ハゲ』って言うから、スリランカでは『1ルピーハゲ』やろか? いまのうちに、『1ルピーハゲ』の商標登録とっとこか。「スリランカの流行語大賞」にノミネートされるかもしれんな。

僕の場合、どんだけ重症でも、シンコクにはなられへんみたい。

入院してしばらくたったころ。夜遅くまで点滴をうって、草木も眠る丑みつ時に、歯を磨きにいったんです。誰もいない洗面台で、下を向いたまま、一生懸命に磨く。数日、まともに磨いてない。

そのとき、後ろから、足音が……。きっと、他の患者さんに違いない。そーっと顔を上げて、鏡をみると、目があったんです。
「あー! あ! あ! あ! あ! あ! あ!」

白くてぼさぼさの髪を振り乱し、頬がこけて目のまわりは真っ赤。首には白い布を巻きつけた、女性の姿。僕は、ありったけの力で叫びました。

「おばけ、やぁー!!」

僕はマジで腰が抜けて、洗面台にもたれかかった。それでも、大声で叫び続ける。すると、看護士さんや、患者さんが駆けつけてくれました。

「どうしたんですか!にしゃんたさん!」
「おば、おば、おばけ……」
どもりながら、立ちすくむ女性を指差す。

「ちょっと、よく見てください。どこがおばけなんですか!」
落ち着いてその女性を見ると、なんと同じ病棟に入院していたNさんやった。不眠症で苦労してはって、長いことこの病院におる方やったんです。

もう、あまりの恥ずかしさと申し訳なさで、またしても腰が抜けました。すんません! Nさん! それに、夜中にたたき起こされた病院のみなさん!!

……でも、心の広いNさんは、何事もなかったかのように許してくれた。それからは、僕の大切な話し相手になってくれました。

40度の熱でうなされていた1週間。僕は個室に入れられてました。一泊、1万2千円。てっきり保険でまかなえると思っていたんやけど、確認してみると、そんな保険には入ってませんでしたわ。熱が下がると、あわてて大部屋に移りました。

でも、その大部屋が最高でして。4人部屋やねんけど、同部屋の患者さんと仲良くなってね。かなりの年配のAさんは、痴呆になってはった。ほとんど話ができない。Aさんは夜も眠らへんので、夜になると別室に移った。

いつも看護士さんに、「Aさん!別荘に行きましょう!」って誘われて、ベットごと運ばれて『別荘』へ。Aさんも、そのたびに嬉しそう。男って、いつまでも甘えん坊やなって、自分を棚に上げながら、しみじみ思いましたわ。

残りのふたりは、どちらも内臓の癌です。田中さんは鞄のデザイナーを長年やってはって、地上さんは着物の帯をつくってはったらしい。ふたりはちょっと対照的。田中さんは、度重なる手術に苦しんで、心の安らぎを宗教に求めてはった。時間があれば、宗教の本を一生懸命に読むんです。

そして地上さんは、いつもハーモニカを吹いていた。我流で覚えたハーモニカを、老人ホームなんかで吹いていたんですって。僕が病院の屋上で洗濯物をしているときに、横でいつも吹いてくれていた。そのときは、いつも顔が輝いていた。

ふたりとも、長くて2年しか生きられない。半年先もわからないんです。それでも、しっかりと生きていた。一生懸命に生きることが、人間に与えられた使命だって思いましたわ。『1ルピーハゲ』でめげている場合とちゃいました。

点滴に、味の薄いご飯。何もせず、寝たり起きたりの毎日。2か月前から気合を入れていた合コンもキャンセル。その当日、連れから「今日はレベル高い。むっちゃ可愛い!」って電話が入ったときは涙がとまらへんかった……。

そんなとき、楽しいイベントが開かれました。田中さん、地上さんと、会場に向かう。点滴をぶら下げている人、車椅子の人、老若男女が集ってくる。病院内のほぼ全員が、大集合。先生や看護士さんも勢ぞろい。看護学校のコーラス部が、慰問で歌をうたってくれたんです。

音痴の僕は、口をポカッとあけて聞き入りました。素敵な歌声。最後は、僕たちも一緒になって歌った。会場は、ものすごいエネルギーが渦まいているように感じましたわ。そして、コーラス部のリーダーの方が、挨拶をしはった。

「私はこの病院に思い出があるんです。なかなか子供に授かることがなかった私が、やっと子供を出産した病院なんです。大変な難産で、帝王切開をすることになりました。そのとき、手術後も私の歌声が変わらずにいれるように、先生がお腹の切り方を工夫してくださった。今日、ここで歌わせていただいたのは、そのお礼の気持ちも込めているんです」

なんと、コーラス部には、そのとき生まれたお子さんも参加していました。人間って、ストーリーを持って生きているんですね。わざわざフィクションをつくる必要なんてない。ノンフィクションがいちばん面白い。

イベントが終わると、みんなでコーラス部にお礼を言うた。印象的やったのは、田中さんと地上さんのお礼の仕方。僕とは気持ちの込め方が違うんです。本当に心から「ありがとう」って言うてた。頭を深々と下げて……。感動すること、感謝することとは、どういうことか、教わった気がしました。

先日、無事に退院しました。大変な病気で、苦しかったけど、いまは良かったと思っているんです。自分の未熟さを知ったし、素敵な人たちに出会えた。

これからも、日本で一生懸命生きていきます。にしゃんたを、よろしくお願いします。

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