71 今年の夏はよかった 【にしゃんた こらむ】
講演のときにいつもすることですけど、会場で面白い方を何人か見つけて、いじらせてもらうんです。最前列にいる人。とくに年配の方が、「餌食」になりやすいですね。
この夏、僕は北九州に行きました。会場に入ると、みなさんの顔を見るためにぐるっと一周。たくさんの方が集ってくれてはったんですけど、いちばん最前列の若い女性に、なんとなく惹かれましてね。いじらせてもらうことにしたんです。その子もノリが良くて、おかげで1時間半の講演が大盛り上がり。最後に花束と、大きな凧までもらいました。
●
講演が終わると、ちょっとしたティータイム。いちばん前の主賓席が僕の座るところ、偉い方々が集まってくる。講演の感想や質問で花咲かせる。そんなとき、僕の目に飛んできたのは、先ほどいじらせてもらった最前列の若い女性。今度は、遠い後ろの席からこちらを見つめてはる。視力3.0は軽く超えている僕やから、見逃すはずがない。何回も目が合うもんで、ジェスチャーで「どうぞよかったら」って誘う。Nちゃんは小走りで来てくれた。
「講演を助けてくれてありがとう」って軽くお礼を言うたら、笑顔が素敵な彼女が、いろいろ話してくれた。関西の語学大学で学位を取っていて、それから中国にも数年留学していたらしい。彼女と喋っていて一番惹かれたのは、九州弁なんです。「聞きよったんよ」「~け」「おってからね」「~しちょって」「知っとーけど」などなど。とってもかわいくて、僕はややノックダウン気味。
●
すっかり意気投合した僕らは、打ち上げの飲み会の席でもずっとお話していた。そうこうするうちに、Nちゃんは小声で、「ね、ね。ドライブに行かない?」って言うじゃないですか。「今日はちょっと無理ですよ。みなさんもいることやし、変に思われるでしょう」って返事すると、なんともさびしそうな顔をするんです。
しばらくしーんとした時間が流れた。そのあと、Nちゃんが唐突に切り出したんです。「実はね。にしゃんたさんの講演のポスターを1ヵ月前ぐらいに見たときに思ったの」
「何をですか」
「この人は私が結婚する人だって」
「……へ?」
「今日実際に会って、確信しました。にしゃんたさんには、私がいないと駄目だって」
「……」
僕はびっくり。でも一瞬、その話に素直に乗ったろうかとも思ったんです。写真を見るだけで、結婚する相手ですって思えることは、素敵なことかもしれんって思った。一回もそんなことがない僕は、Nちゃんが羨ましいとも思った。そして、本当に素敵な彼氏ができることをお祈りしますって、硬い握手を交わして別れました。
●
久しぶりに、恋の予感があった僕。でも普段はさっぱりで、よく連れにボヤいているんです。そうするとその連れが、「日本では昔、にしゃんたの好きな祭りが、出会いの場やったんやで」って教えてくれたんです。彼の福井出身のおばあちゃんも若いころ、相手を探しに盆踊りへ出かけていってたらしい。「昔、ダテをこいで(福井弁でおしゃれをするってこと?)隣の村でも何でも、男前を探しに行ってましたよ」ですって。
そういえば、祇園祭の保存会の方に、「これからの祇園祭を盛り上げ、支えていく若者に、何を伝えたいですか」って聞いたら「僕らの子供のころは、同級生の女の子が浴衣を着ておしゃれして、祇園祭に遊びに来ると、昼間の学校の制服とのギャップで、ドキドキしたもんですわ。いまの若い子らには、伝統を守ることももちろんやけど、そういったドキドキするような気持ちも大いに味わってほしいですな~」って言うてはった。
何を隠そう、スリランカも祭は出会いの場なんです。祭りでカップルが生まれることが、とても多い。僕も子供のころ、象さんが300頭ぐらい参加する「ペラヘラ祭」で、沿道の方々に水を配るボランティアをしていたんですけど、女の子がいるところでうろちょろしてただけでしたわ。ナンパは一回も成功せーへんかったけどね。
●
それからしばらくしたあるとき、僕の膝を直してくれた岐阜の井上先生と浅井先生から電話がありました。「にしゃんた来てやー。準備できてるから」
祭の誘いですわ。初めて参加した、「郡上祭」。同じ音頭でみんなが踊る。僕も膝が痛かったけど、浴衣に下駄を鳴らしながら汗びたしになって踊った。町じゅうが一種のトランス状態。ものすごいエネルギーですわ。
隣のアメリカ人の連れは、郡上節を英語に解釈して叫んでいました。"I love pizza! Ye! Ye! Ya!" ……全然ちゃうけど、楽しそうに歌っている。踊っていない人がひとりもいない。知らず知らずに巻き込まれる。生まれてはじめての体験。
確かに、祭りは開放的になって、恋が生まれそうな気もしますね。そんなひそかな期待も抱きつつ、これからもいろいろなお祭りに参加していきたいです。